今年の春に発刊されベストセラーになった『鈍感力』という本があります。
著者は『失楽園』や『愛の流刑地』等の作家であり、多くの小説を著していますが、同氏には珍しいエッセー集であります。
小泉元首相が、就任直後に支持率が下落傾向にあった安倍前首相を励ます時に『鈍感力』という言葉を使ったことから一躍有名になりましたので内容をご存知の方、既に読まれた方もいらっしゃるかと思います。
私がこの本から感じた『鈍感力』について少し話をしたいと思います。
鈍感と敏感は反対語であり、鈍感より敏感の方が良いイメージがあり、一般的には鈍感にはマイナスのイメージがあります。状況が読めない、人の言葉に反応できないことを鈍感な人と言い、だから鈍感は良くなく、敏感な方が素晴らしいことであると言われます。
著者が推奨するのは、「鈍感であり続けること」であります。それは心身の管理から人間関係や仕事に至るまで、敏感すぎる人には良い結果が訪れないことを様々な事例で結論づけています。他人の褒め言葉に対して、すぐに図に乗るくらいがちょうどよく、人間関係、恋愛においても、鈍感でめげない人が最後に思いを遂げると説いています。著者は医師でもありますので医学的な見方からも鈍感の優位性を述べています。
私たちが行う業務は複雑で繊細であります。ですから個別の業務を行う上で鈍感が良いと言うつもりはありません。ましてや鈍感さにより顧客、地元、社内に迷惑をかけ業務の進捗、会社の信用を失墜することを是認しているわけではありません。業務においては、集中して敏感に対処していただきたいと思います。
しかしながら、対人関係、特に毎日顔を合わす社内においては時として鈍感力も必要ではないかと思います。
(以下、原文を引用します)
『さまざまな人の、さまざまな態度が気になる人もいれば、あまり気にならず、そんなことはどうでもいい、と思う人もいます。人それぞれの感性ですが、はっきりしていることはただ一つ、さまざまな不快さを無視して、明るくおおらかに生きていける。こうした鈍感力を身につけた人が、集団の中で逞しく勝ち残っていけるのです』 渡辺淳一『鈍感力』
私たちは、寝ている時間を除けば、一日のうちで最も多くの時間を職場で過ごします。そこにはいろいろな特徴を持った人、年齢層の人が集まっています。業務が忙しくなるといろいろな感情がぶつかり合うこともあるかと思います。お互いがうまくやっていくためには『鈍感力』も大切ではないかと思います。多忙な時期を迎えると社内にもいろいろなひずみが生じることもあるかと思いますが、適度に、そして良い意味で鈍感になっていただき、お互いが許容し、認め合って乗り切っていきましょう。