近年では20年ごとに改札が行われるのが慣例となっています。明後日7月3日には新紙幣が発行されます。改札で注目されるのが一万円札の顔です。前々回の1984年に聖徳太子に替わって福沢諭吉が選ばれ、前回の2004年にも連続して福沢諭吉が採用されましたので、今回の改札では40年ぶりに紙幣の顔が替わることになります。皆さんご存じの通り、新しい一万円札の顔は渋沢栄一、五千円札には津田梅子、千円札には北里柴三郎子が選ばれました。早ければ今週中にも皆さんの財布にお越しになるのではないでしょうか。
渋沢栄一は明治から大正にかけて日本の近代化をリードした実業家です。その功績は、近代経済システムの根幹となる日本初の銀行や証券会社などの金融業を設立したことに始まり、電力やガス、鉄道、海運などのインフラ産業、製紙会社、ホテル、ビール製造会社など、何れも当時の日本にはなかった多岐にわたる500に及ぶ会社をたちあげています。加えて約600の福祉、医療、教育機関など、社会事業の支援にも関わった偉人です。
戦後に紙幣の顔となった人物は、二宮尊徳、岩倉具視、高橋是清、板垣退助、聖徳太子、伊藤博文、福沢諭吉、新渡戸稲造、夏目漱石、樋口一葉、野口英世などで、今回の津田梅子、北里柴三郎を含め、いずれも政治家か教育者、研究者、作家などの文化人に限られています。実業家で紙幣の顔に選ばれたのは渋沢栄一が初めてのことであり、しかも最高紙幣である一万円札の顔ということで注目を集めました。渋沢栄一が選ばれたのは、近代日本の経済システムを作り「日本経済、資本主義の父」と評価される多大な功績に加え、財閥が飛躍的な成長を遂げた時代にあって、決して特定の人の富の拡大と寡占ではなく、企業として社会貢献を行うことや多くの人の幸せを実現する公益を追求するという『道徳』を大切にした経営を行い、同時に利益を求める『経済』が両立することを事業の理念として実践し続けた人物であることが評価されたようです。今の時代の企業では、その理念はCSR、SDGSなどが言われ、一般的なものですが、発展途上にあった当時の日本では斬新なものであったようです。その思想は著書『論語と算盤』で広く紹介され、百年以上経った今の時代においても『道徳経済合一説』として多くの企業、経営者から支持されています。
当社の経営理念体系に位置付けている経営方針の三つの指標である『社会性の追求』『人間性の追求』『利益性の追求』は『論語と算盤』の理念から得たものでもあります。今日から第二四半期がスタートします。新一万円札の顔となった渋沢栄一が微笑んでくれるよう、社会、お客様の役に立ち喜んでいただける仕事をすること『社会性の追求』。仕事により自らが成長、発展を遂げ、自己実現を叶えること『人間性の追求』。その二つを両輪として個人、会社とも健全に発展し継続すること『利益性の追求』。この三つをひとり一人が追い続けて第二四半期を歩んでまいります。
和田晶夫