藤井聡さんの著作『公共事業が日本を救う』を紹介いたします。著者は京都大学の教授で 土木計画学、交通工学を専門とされている方です。 この十年余りの間で公共事業関係費は大幅に削減されてきました。また、最近では「コンクリートから人へ」のスローガンのもと「事業仕分け」等を通じ、更なる削減がなされ、本年度予算では、ピーク時の15兆円から、三分の一の5兆円まで急激に減少しました。(この間、社会保障関係費は約2倍の28兆円に膨張しています)
脱ダム宣言、港や高速道路不要論が叫ばれ、膨張してきた国の借金の全てはあたかも公共事業が原因であるかのよう言われ、公共事業=悪というイメージが作られてきました。この書籍では「コンクリートから人へ」を真っ向から否定し、ダム、道路、港、橋や構造物、公的な建物の補修、耐震化等を効率的、計画的に行うことこそが、将来的に国民が安心・安全で豊かな暮らしをおくるために不可欠で、そのことがグローバルな競争下における我が国の存在を保つ唯一の政策であることを分かりやすく説明しています。また、東日本大震災が発生する前の著作ですが、我が国が地震列島であることを論拠に、首都直下型地震や三陸沖の地震について警鐘し、その被害が人的、経済的に甚大であることを予測し、その対処として耐震補強等を急ぐ必要があることも述べています。これらの政策の根拠となる財源についても、消費税増税で経済を縮小するのではなく、デフレ脱却、円高是正が急務であり、そのためには思い切った財政出動が有効であることを主張しています。このことについては、最近では著者だけでなく、まだ主流ではありませんが、多くの学者や識者も同様な主張が多くあります。
島根県においても、公共事業関係費は国と同様にピーク時の三分の一に減少し、建設産業の雇用も大幅に減少し、過疎化、高齢化に拍車をかけることとなり地域が衰退し、限界集落の数は全国一となり、このままでは将来的な展望が出来ない状況となっています。公共事業は一部の人や、建設産業のためのものではなく、地域を活性化させ、産業活動を盛んにし、経済力を高め、ひいては国力を高めるという、『公共のためになる事業』であることを認識し、このような閉塞感のある時代だからこそ推進しなければならないと思います。
最近では一時の「公共事業=悪」という論調も影をひそめ、将来の国民の生活を守るために必要な事業はやるべきであるという本来の方向を取り戻しつつあります。国では中止となっていた八ツ場ダムの再開、整備新幹線3区間の着工、私たちの地域では山陰道三区間の着工が決まったことはその顕著な例であると思います。
近年、公共事業に携わる私たちでさえ惑わされる偏った報道や風説により世論が形成され、自分たちの仕事に対する誇りや自信を失いがちでした。この本を読んで、一人の国民として、特にプロとして公共事業、土木技術に携わる私たちは、無責任な社会風潮に惑わされることなく、国土や地域の状況や現状をよく知り、正確な情報のもと、将来のあるべき姿を真に考え、公共事業は「公共のためになる事業」であることを十分に認識し、この仕事に使命感と誇りをもって当たらなければならないと実感いたしました。
この書籍『公共事業が日本を救う』は、当社の皆さん全てに読んでいただきたいと思いましたので紹介いたしました。
本年度の業務もいよいよ佳境に差し掛かりました、多忙を極める時期を迎えます。
私たちの仕事は『地域創造業』です。より良い地域創りを行う最上流にある仕事に携わっているという、誇りと使命感を持ち、それぞれがプロの自覚をもって業務を行ってまいりましょう。